エベレスト・トレッキング3日目

ナムチェに到着した翌日、目がさめると、霧は晴れていた。

 

 

標高3,400m以上の高地にあるシェルパの里ナムチェ。

富士山でいったら9合目に近いくらいの高さ。

バザールも開かれる、エベレスト街道では最大規模の村である。

 

中心部にはロッジ、レストラン、土産物屋が密集している。

アウトドアグッズもここでたいがい揃えられるので、カトマンズでの準備に不足があった場合には買い足すことができる。

 

しかし斜面につくられた村だけあって、アップダウンが激しく、歩いているだけでも息切れしてくる。

 

ATMもある。

 

これは両替屋。

 

石畳の道の風景がなんとも風情があって良い。

 

ルクラから登ってきたトレッカーの場合、ここから先へ進まずにもう1泊し、高度順応するのが良いとされている。

この日は、僕も例にならってナムチェでゆっくりすることにした。

 

朝は遅めに起床し、昼頃から散歩がてらすぐに行けるシャンボチェの丘へ登ってみた。

といっても400m近く登るのでクタクタになるが、頂上付近から見える雪山や、風になびくタルチョが美しかった。

 

またこのとき、ザックをロッジに預け、小さいなショルダーバックだけで登ったので、疲れないと思っていたのだが、予想がはずれた。

上り坂で感じる体への負担は、12kgのバッグを担いでいるときとそれほど変わらないのだ。

やはり、荷物を減らすことより高地の低酸素状態に慣れることの方が大切なんだろうか。

 

エベレスト・トレッキング4日目

7:00過ぎに起床して朝食を食べ、8:30に出発。

高山病の症状などは特に見られず、体調は良い。

一応念のため、宿泊していたロッジでストックを借りることにした。

ストックがあるとバランスが取りやすくなるだけでなく、体重を分散させることにより、足腰に対する負荷を減らすことができる。

今日は標高4,000m近くなるタンボチェまで登ることにした。

 

ナムチェからタンボチェ方面に向かうと、しばらく写真のような山あいの道が続くが、平坦で景色が良く、歩いていてとても気持ちが良い。

エベレスト街道の中でもかなりお気に入りの場所。

 

相変わらずシェルパの方々は凄い。

重く大きな荷物を持っていてもガンガン自分を追い抜いていく。

 

遠くから鈴の音が聞こえてくると、やがてロバやゾッキョの群れが現れる。

こんな光景も見慣れてきた。

狭い道も多いため、彼らの邪魔をしないよう、うまく端に寄ってすれ違う。

 

ナムチェからしばらく平坦な道を歩き、谷に流れる川へ下ると、キンプテンガに着く。

ここからタンボチェまでがエベレスト街道での第二の関門。

ナムチェのときと同様、600m程度の急坂を登らなくてはならないからだ。

 

しかし、高所に慣れてきたのか、ストックを借りたせいなのか分からないが、前日までと比べてかなり足が軽い。

すぐに息切れすることもなくなってきた。

トレッキングをスタートした頃は、他のトレッカーに追い抜かされることが多かったが、この辺から同じくらいのスピードで歩けるようになった。

 

僕は足元を見ながら傾斜の大きい坂をひたすら登る。

あまり先の景色を見てしまうと、その道程の長さに戦意を喪失してしまうかもしれないと思ったからだ。

 

仕事を片付けるときもそう。

果てしなく巨大な課題を抱えてしまったときには、その課題を分割し、一度に視界に入ってくるをタスクを最小限に減らし、優先度の高いものから処理を進めるとスピードが上がる。

多くの人は、入ってくる情報が多いほど、集中力が落ちるようにできている。

 

途中、適度に休憩をはさみながら、15:00頃にタンボチェに到着。

この日は計画どおりに、かなりいいペースで歩けたと思う。

 

タンボチェにあるお気に入りのゲストハウス・ TENBOCHE GUEST HOUSE。

ロッジを経営しているファミリーが面倒見が良く、キビキビと働いているのが好印象。

 

部屋もよく掃除されていて綺麗。

朝晩外は冷え込むが、部屋の中は割と暖かった。

 

 

このロッジでは日本人の方に多く出会ったが、その中で、長期旅行ではなくふつうの休暇で来ていた方がいた。

有名企業で自分と似たような仕事をしているが、僕より10歳程度年上で、既にマネージャークラスだ。

既にエベレスト・ベースキャンプ近くまで到達して下山しているところ。

 

そしてこの方に、

僕は長期旅行者っぽく見えない

と言われたことが結構ひっかかった。

 

「見えない」というのは見た目のことではなく、雰囲気とか話し方のことだという。

海外を長期で旅している日本人には、もうあまり日本で勤め人として働く気はない、もっと自由な生き方を探したい、という考えをされている方が多い。

そんな方々は、ビジネスの現場から長く離れているせいか、普通に企業で働いている人からすれば浮世離れした空気を醸し出している。

ところが僕の場合、もう半年も旅している割には普通に息抜きで海外旅行しに来ている人とそんなに変わらなく思えるらしい。

 

確かに僕は、好奇心で旅を”してみている”だけに近い。

ブログのタイトルはSEOを意識して「世界一周」というワードを入れているが、別にそれにこだわっていないし、大きなテーマがあるわけではない。

行きたいところに行って見たいものが見られればいい、つまり純粋に旅を楽しめればよい。

別に日本へ無帰国で旅を続ける必要性もないと思っている。

ただ、行ってみたい場所が世界中にあるために、結果、世界一周っぽい格好つけた形になっている。

 

最後にこの方には、

別に意地張って世界中回らなくても、ある程度満足したら帰国してまた仕事し始めていいんじゃないかな。

と言われた。

 

この「満足」という言葉を聞いたとき、少し怖くなった。

僕は今までの人生で、「達成感」「充実感」というものをあまり感じたことがない。

生まれつきの性格なのか、成功体験があまり無いからなのか、よく分からない。

ただ、この旅を始めてからは、さすがに面白い、充実していると思う瞬間が多かった。

毎日のように新しいものを見聞きして刺激を受けているから当然である。

 

そしてアジア旅の目玉であるエベレスト・ベースキャンプまで行けば、さすがにそれなりの充実感を得られるだろう。

前の仕事で感じた喪失感みたいなもの多少埋めることができるはずだ。

 

でももしかしたら、このトレッキングが終わったら、自分は満足して本当に旅を続ける意志が無くなってしまうんじゃないだろうか。

そんな予感がし始めていた。

 

物事を続けるには、

何か面白そうだから

という快楽的な直感が大切である。

 

人間が行動を起こす動機としては、これが最も大きなパワーを持つ。

 

しかしそれが無い場合、続けなければいけないための理由をつくる必要が生じてくる。

理由をつくる必要性に迫られると、急に陳腐化して面白さが薄れてしまう。

 

 

僕は、明らかにこのときから、旅を続けるための理由を探し始めてしまっていた。